2018-10-23

中学2年美術 木彫 鎌倉彫 試作 「塗り試作 磨き」編

美術教材 鎌倉彫 試作の塗装 磨きの仕上げ編です。

塗りの技法はそれこそ数限りなくあり、唯一無二の正解はないのだろうと考えます。

言われたことをその通りにこなし、技巧を凝らした作品を作れる人間を育てるのも一つですが、素材の手ごたえや反応を感じながら、工具や技法による仕上がりの違いなどを楽しみつつ柔軟にしたたかに制作できる人(=ものづくりそのものを楽しめる人)を育てたいと考えています。

従いまして、磨きの工程も複数の道筋を用意してみました。

上塗りまで終わったら…
(1)マイクロポリネットシート1000番で水研ぎ→曇る
(2)ヤスリスティック1000番で磨く→曇る
(3)朴炭で水研ぎ→曇る
このいずれかで研ぎます。

その後
(1)呂色磨き粉をウエスまたは脱脂綿に取り、サラダ油をつけて磨く
(2)コンパウンドサンジェットP-202(中目)をウエスにつけて磨き、P-616(超微粒子)をウエスにつけて磨く
のいずれかを選択し、艶上げをしていきます。

朴炭や呂色磨き粉は本物のうるしの作品を磨く時に使われているものですし、コンパウンドも家具や車両のクリヤ塗装後の研磨などにも使われています。準備は大変になりますが「選ぶ」という行為も作品に主体性を添えてくれるのではないでしょうか。



呂色磨き粉で磨く時の作品と用具

ぐり紋がツヤっとしました

塗り立て状態。ツヤはありますが、少しぐにゃっとした印象です

マイクロポリネットシートはネット状になっているため目詰まりしにくいという特徴があります。
茶色いポリネットシートの4桁番手バージョンです。

漆屋さんの通販サイトにて磨き資材として紹介されていたものを買って使ってみました。

P-202にもP-616の商品説明にも「素手で触ってはいけない」「皮膚についたら石鹸と流水でよく洗う」というような記述もありました。手袋…?

磨きあがりました。写真だと色が補正されてしまって見えにくいですが、
コンパウンドで削れて中塗りの鎌倉赤の透け具合が綺麗でした。

2018-10-21

「美術の授業ってなんだろう?」を見てきた

幼稚園から大学まで美術教育の流れを体感する展覧会「美術の授業ってなんだろう?」を見てきました。係の方に写真撮影OKを確認、忘れないうちに記録しておこうと思います。

「ちょっとこれ、どこかの授業に組み込んでみたいな」と思ったものを写真で

東北芸工大のこども芸術大学認定こども園、OHPを劇で使う演出…中学生ならプロジェクターとパワーポイントなんかを組み合わせてできるんじゃないかと…。


 滋賀大学教育学部附属幼稚園での100かいだてのいえ…さんぱちパネルを作り、幅120cmのクラフトロール紙を水張りして、3枚分または4枚分1クラス32名の共同制作にしてみたらどうだろう



昭島市立つつじヶ丘小学校、図工のドキュメンテーション→出来上がった作品それはそれとして、プロセスの記録。「ティンカリング」という言葉もいいなと。



弘前大学教育学部附属中学校 2年生で大きな立体の共同制作を行なっているようです。「組みねぶた」の作りかたを参考に針金と新聞紙とボンド水(と半紙?)で。これらの素材が造形結果に制約をもっていて、リアルな作りこみが出来にくい素材であり、その中での美しさを見出すのもいいなぁ…というのは勝手にした解釈です。


都立小石川中等教育学校 中学2年の題材→墨をつかった題材で私の中に持ちネタと呼べるものがなく、 参考になりました。大きい紙、ってやっぱり面白いなと。



北海道教育大学附属釧路中学校 3年生の題材(7時間) やっぱりこれも 


三菱地所がやっている「キラキラっとアートコンクール」の作品 障害がある方の作品コンクール 「これいいなぁ」って感じる作品がたくさん。ここに来るまでその存在を知らなかった。



岩手大学教育学部附属特別支援学校 発泡ポリスチレンフォーム(スタイロフォームやカネライトフォーム)で大きなスタンプを作って、それを画面に押していく、という手法が自分でもやってみたくなるものでした。


東京藝術大学先端表現科 インタビュードローイング →入学後すぐに行う題材で、イーゼルにカルトンをかけて、お互いに向き合いながらインタビューをしつつ相手の顔をドローイングする、というもの。全員分を描くそうです。たくさんの人に顔を描いてもらえて「どんなふうに描かれているんだろう」と思ったりすることや、人数分の描画経験を繰り返せるという利点があります。やってみたいけど、時間と場所の問題をどうするのか。32名いるとして、話をしながら相手の顔を描く、他のグループの話が邪魔にならず対話できて描ける16組のスペースが必要で、時間も5分間では短い気がするし、10分では1回の授業で4枚しか描けません。これでは全部で8回分必要となります。年間の授業時数で8回これに使えるのか、というとそうもいかない現実。
その時に交わした対話の内容を画面に書いておいたりして、と色々想像を膨らませました。





「美術の授業」にはたくさんの展開バリエーションがあり、そこから派生するコミュニケーションもあれば、課題発見もあり、なんでも創出可能なカオスがあるように感じます。それを変に狭めず、整えすぎず、決めつけず、その状態を楽しみ続けようと考えた1日でした。

そろそろ芸術や実技系教科を減じた方針から、増やしていく方向に舵を切るべきかと思いますが、どうなんでしょう。高等学校でも芸術を選択ではなく、音楽も美術も工芸も書道も舞台表現も全員が学ぶ方が成熟した社会になると思うんですけど。

2018-10-20

中学美術 発泡スチロールを使った共同制作(美術部における共同制作:短期屋外展示)

さがみ風っ子展という行事があります。

http://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kankou/bunka/1003884.html

うちの学校も招待校として参加しており、前期美術部の共同制作が慣わしとなっている感じです。(市内の全小中学校が参加していて、こちらは主に授業作品を展示している様子)

大きな公園の広場を会場としているため、設営はしたものの台風で中止になった年もあったとか。昨年はかなり雨が降ったりしている中での展示でした。

文化祭も終わって9月の終わり、通常の部活再開のタイミングでミーティングを開き、後期生は高校美術展の出品作品を相談し、前期生は風っ子展の作品を相談していました。

「今年は立体を作りたい」という希望と具体的なモチーフ案がまとまっているようだったので、縮小したサイズでの簡単な図面を書かせ、それを元に案の中心であった部長(中3)と打ち合わせをして発泡スチロールでやってみようか、という方向性を決定。発泡スチロールをどこから入手すべきか考え、ネットで調べ、近隣の造形屋さんに電話をして行きました。

スタイロフォームにするか、白い発泡スチロールにするか迷い、1枚で厚みがまかなえる発泡スチロールにしようと決めたものの、大きいものを運ぶためには大きな車も必要になるか、輸送を依頼すると運送費用が発生してしまうので予算オーバー…。学校に近いところで、(ある程度)カットしてくれて…というところを探して、方々にあたってみましたら、前任校でつながりを持たせていただいた業者さんが引き受けてくださることに。風っ子展の打ち合わせの後、ワゴンRで引き取りに行きましたが事前に考えていたサイズの見積もりが甘く、一度では運びきれませんでした。
流石にこれでは後ろが見えなくて危険(積み直してなんとかセーフ…)

放課後に2往復してようやく準備が完了。日中に授業をして、午後出張で打ち合わせに出て、その後で工場と学校の2往復は流石に疲れました。教頭からは「来年度は予算を取りな…」と。
空気を運んでいるようなものです

さて、制作ですが作るモチーフは「チェス駒」。
時期的に時間が取れず、その意味を深く考えたりはしていないので「やってみたいからやってみた」という感じになりますが、チェス盤パートと駒パートに分かれます。

【チェス盤】
チェス盤の黒マスを作ります。サイズは1辺が910mm。角材とベニヤ板で形を作り、パテがわりにタイガージョイントセメントを塗って研磨し、ラッカースプレーの黒とクリヤーを吹いて、コンパウンドで磨きます。

【駒】
白のルークとクイーン、黒のナイトを作ります。発泡スチロールの塊を組み合わせて横から見た形を描き、いらない形をカービングしていくというオーソドックスな進め方です。でもやったことがない人にとっては結構荒彫りをしていくのって勇気がいるというか、繰り返しているうちに「わかる」「できる」ようになっていく、そのプロセスが興味深いところでした。接着部分はスチロールの中心に10mmの穴を開け、木でできた丸棒を5cm程度突っ込んでスチのりで接着してみました。形が整ったらジョイントセメントを塗って研磨し(←イマココ)、水性のスプレーで塗装し、水性のクリヤーを吹く予定です。
黒のナイトは馬の頭を作るのは技術的に不安だったので、鑑賞者が台座に乗って作品が完成する、台座には剣が突き立っている、という意匠にしました。ナイトだけは台座に角材の木枠を組み込んでいます。

◆以下、写真で記録

まず、スタイロフォームと白い普通の発泡スチロールで加工サンプルを作ってみました。
コーティング剤としてタケシール液体パテ(グレー)を試してみました。
左の円柱から削ったものが白い発泡スチロール、
右の矢じりのようなのがスタイロフォームをヒートカッターでカットしたもの
タケシール液状パテを塗りました

棒ヤスリと紙やすりで研磨
ジョイントセメントと同じ感じに思えた。
ジョイントセメントの方が同じくらいの価格で10kg(粉)買えるので、
近くの建材屋さんにお願いして取り寄せて売っていただいた

◆一緒になって荒彫り作業を行う。ついつい写真記録を忘れてしまう。
造形屋さんも苦労されていると思うが、粉が大量に出る。
体にくっつく。掃除しても掃除しても取りきれない。

塊からこれを切り出すだけでも二人掛かりで
16時20分部活開始→18時には全て掃除も終了して校舎を出る、
という1回分の活動を使ってしまう
◆大きな発泡スチロール作品制作で困ったこと
切ったり削ったりするときの粉が体に付着→制作終わりで掃除→作業場所の色々なところに付着→歩いたところにスチロールの粒がふわりふわり→掃除をしてもしても終わらない
最終的に職員室内にも粒がチラホラ見える始末で、翌日の朝の打ち合わせでかくかくしかじかで〜ご迷惑をおかけしますすみません、と。ご理解賜りたく、と。
「掃除を徹底させます」とか無責任なことを言えたものではなく、美術部生徒連日がんばっておりますので、清掃時の皆様のお力をお貸しください、くらいのお願いをしました。


スチロールの削り出し中盤から後半

違う角度から

タイガージョイントセメントを塗りました

肌がざらついて、ルークはこのままの方が風合いがいいのでは?となり研磨しないことに決定
ナイト台座
◆試行錯誤した工具たち
様々な工具を試しながら制作しました。
序盤での必需品はノコギリ。横引きのものがよかったので、片歯でも。
断熱材カッターもよく切れました。

ノコギリと断熱材カッター
荒彫りの次に研磨をして形を丸めたりしていきますが、「かんなヤスリ」が使っていて気持ちいいくらいサックサクに丸められます。のこヤスリも強い味方。その後肌を整えるのと面を出すのにドレッサーが役に立ちました。
かんなヤスリ、のこヤスリ、ドレッサー

そのほかによく使ったものたち
接着はスチのり
接着面両面になじませ、手につかなくなったら圧をかけて貼り合わせます

充電式ドリルドライバー
木の加工に欠かせません

リューター
剣のツバ部分を石粉粘土で作り、乾燥後に細工をこれで

ランダムアクションサンダー
ウールバフ
チェス盤の磨きに使用

チェス盤
中央は見えなくなるので、塗料の節約のため未塗装

研磨し切れなかったジョイントセメントの
凹凸ムラがマチエールとして魅力的だったりする


搬入日は10月26日(金)、しかしながら水曜日から中2は職業体験、中3は宿泊行事でいなくなってしまいます。したがって23日(火)には完成させて事務室前に置いておく、というのが目標なんですが…。

さてさて、仕上がりはどのようになるのか、会場でぜひご覧ください。

中学2年美術 木彫 鎌倉彫 試作 「塗り試作」編

「彫り」編の続きです。

残りのカツラ材で小さいものを二つ追加しました。
 
ロコイド軟膏のチューブと「ぐり紋(自分なりの解釈)」

今回の鎌倉彫を題材にするにあたり、以下の考え方を提示しました。
・伝統紋様や過去の彫刻や鎌倉彫作品を調べてそれを模写するように作る
・身の回りにあるものを見つめ直し現代的なモチーフの新作鎌倉彫を作る

過去に戻るベクトルと、「今」を見渡すベクトル、どちらも未来に繋がっていると思うので、どちらかに偏るのではなく、全員の作品が出来上がってそれを展示した時に幅広い作品が並んでいてほしいし、それがやっぱり自然なんじゃないか、というこちらの思いがありました。

それを見本として見せたのが、今回の3点というわけで。


さて、「塗り」なんですが、シンナーを扱う油性塗料は中学2年生という成長期において何らかの影響があるのではないかということを懸念し、候補から外しました。

本物の漆もできるものなら扱わせたいですが、これから気温も湿度も下がっていく時期で乾かないことが心配だったのと、何よりかぶれの問題もあるので候補から外しました。

水性塗料で、うるしの工程が踏めるのではないかと期待してワシンの「水性工芸うるし」を使ってみることに。

試し塗装で用意した道具

乾燥させるために乗せておくものに一工夫。
カットしたクリアフォルダーに記名してある名刺サイズのカード、
画鋲をプスッと刺して針が出ています。


その針3点以上の上に乗せます
しかしその後、ちょうど良いものが見つかったので、このやり方はやっていません

立体物の塗装で困るのが全面を塗装するためには表側と裏側、2回分の手間がかかる、ということではないでしょうか。45分の授業中に2回分の塗装を行うのは困難で、次の授業は1週間後…となるのが普通です。また、側面を塗る時にも手に塗料がついたり、刷毛から落ちた塗料が机を汚してしまったり…。(40人弱の集団が同時に塗装をする、といった通常ではなかなかありえない状況下での)塗装にまつわる様々な面倒くさいところを乗り越えてまで何かをやらせたい!とならないとなかなかこういった実践が増えていかないのだろうと思います。

一応今回は裏を塗ってみた

「蒔き地」や「紛蒔き」など様々な名称で呼ばれていると思いますが、地塗りが乾く前にとの粉を蒔きました。100均の製菓用具コーナーでふるいを買って来て上からふるってみました。
ふるい に との粉
ふるわなくても全然大丈夫なキメの細かさでした

蒔き終わり

少し落ち着かせてから刷毛で余計な粉をさっとはらった


ここで4時間以上乾燥
乾燥後に耐水ペーパーで水研ぎをしたような…。
400番で空研ぎだったかも…。(写真がない)

中塗りとして「鎌倉赤」を塗る(1回目)

4時間後に1000番の耐水ペーパーで水をつけながら研磨

研磨終わり

中塗り2回目

2回目の1000番水研ぎ

その後1回追加して合計3回の「鎌倉赤」を塗った後、研いでから上塗りとして「朱」を塗りました。
予想以上に明るい色で、1回目では下の鎌倉赤が全然隠れません。

水性工芸うるしのボトルにも説明がありましたが「3回くらい塗り重ねてください」とあるように、油性のものよりも1回分の塗膜は薄くなるようです。刷毛塗りの泡立ちも消えにくい感じがします。

1500番くらいで一度水研ぎしてみたもの(と思われる)

その後「朱」を2回追加して、3回分の塗膜

マイクロポリネットシートの1000番で空研ぎをしてみた

マイクロポリネットシートの3000番で空研ぎ

塗りの工程見本を作ることにした。試しの反省を生かして中塗りを「朱」に。

この後、コンパウンドや胴摺粉を試してみる予定です。
また、他の色の組み合わせ(藍と黒、乳白色と緑、赤に古び粉蒔き)も試しているので、後日その2つをまとめます。